テニミュオタクが怪談を聞きに行った話

5800。

この数字を見て、連想するものはなんでしょうか。人によって様々でしょうが、私の周りに限定すれば恐らく多くの方がこう言うでしょう。

テニミュ」と。

 

そう、『ミュージカル・テニスの王子様』のチケット料金。これが5800円なのです。(現在は値上げしているので6000円ですが)

www.tennimu.com

 

さて話は変わりますが、先日私は『MYSTERY NIGHT TOUR 2016 稲川淳二の怪談ナイト』に行ってきました。

www.inagawa-kaidan.com

 

私は別に稲川淳二さんの大ファンというわけでもなく、このツアーを知ったのも偶然でした。ホラー好きの友人の影響で時折話を聞いたり、Twitterを覗いたりする程度です。

というかそもそも私はホラーが苦手で、心霊写真もホラー映画も進んで見る方ではありません。本怖はCMを見るのも嫌だ、ニコニコの釣りは心の底から恨めしい。

しかし夏になると何故か怖い話を検索して読んでしまい、後悔する。身近な人の体験話は聞きたがる。「関わりたくはないけど興味がないわけではない」ある種野次馬気質な興味はありました。

そんな私がこの怪談ナイトに行こうと思ったのは至極単純、『当日券が5800円』という理由からだったのです。

テニミュと同じ値段であの稲川淳二の心霊語りが聞けるのか〜、そんな軽いノリで申し込み、行ってみることにしました。

 

 

当日。私が申し込んだのは大阪公演初日のライブでした。

森ノ宮ピロティホールに着くと、会場の前は既に沢山の人で賑わっています。客層は幅広く、20代ほどの若い人からお年を召された方まで老若男女を問いません。中にはカップルで来られている方もいました。(というか意外にもそういう人が結構多かった印象)

舞台には古めかしい家屋のようなセットがあり、叫び声と不気味な物音が響いています。席誘導のスタッフの方は揃いのはっぴと提灯を持っており、雰囲気出てるなあと感心していたところ、開演時間となりました。

音響が一段と不気味さを増し、照明もおどろおどろしく舞台を照らします。ホラーの中でもびっくり系に弱い私は「怖い女の顔とかアップで出てきたら帰ろうかな…」と既に後悔モードに入っていました。

そして家屋(日本屋敷の玄関のようなセット)に人影が!

 

登場したのは勿論稲川さんでした。

途端に明るくなる会場。そしてその瞬間、客席からわっと声が上がりました。

 

「きゃーーーー!!!!!」

「淳二ーーーーーーーーーーー!!!!」

 

大きな拍手とコール。オープニングとのテンションの差に暫く呆然としていると、稲川さんは満面の笑みでブンブンと手を振って声援に応えています。

アイドルかな…?

舞台の端から端までゆっくりと丁寧に手を振り返し、盛り上がる会場。こういうことを言っては失礼かもしれませんが、正直めちゃくちゃ可愛い…

 

ようやく席に着いた稲川さんは近況を語り始めます。

怪談だけじゃない、笑いも取れる、さすが稲川淳二…と思っていたら(元々リアクション芸人でもあったと後に調べて知りました。所謂ダチョウ倶楽部的な立ち位置だったのだそうで)ごくスムーズにその笑いのネタすらも怪談だったというオチで改めてその話術とストックの多さに圧倒されました。ここまで恐らく30分ほど、すごく長く感じたのですが、まだ所詮は前座だったのです。

 

そしていよいよ始まる怪談語り。

「これは数年前のこと、仮にAさんとしましょう…」

稲川さんといえば独特の擬音と滑舌、所謂「稲川節」ですが、生で聞くとその迫力もひとしお。+雨の音や雷鳴など、音響や照明の効果もあり、正直怖い…

私はテニミュを含めた舞台観劇が趣味の割にはあまりにも集中力がなく、劇の最中に過去のどうしようもない思い出や現実の嫌なことを思い出す悪癖があります。しかし今回それが一切なかった程には引き込まれ、鮮明に状況を想像させられました。

闇の中で恐ろしい怪談を語っている稲川さんは、数分前まで可愛らしく手を振っていた彼と本当に同一人物なのだろうか…

 

この話の内容もどうやら全国各地で色々と変えているらしく、ツアーによっては地域性の高い話も聞けるそうです。

所々でやはり笑いも挟みつつ、怪談語りは終了。

「あ、なんだ…意外と短いんだな」と腕時計を見た瞬間、稲川さんの口から飛び出たのは「じゃあ次心霊写真いきましょう」

 

!?

 

前述の通りホラーが苦手な私ですが、その中でも突き抜けて駄目なのが「心霊映像(ビデオレターや動画にたまたま映ってしまった系)」と「心霊写真」なのでした。

ツアーの下調べを一切してこなかった私は、そこで初めてそのようなコーナーがあることを知り、絶句。どうしよう、帰りたい。

スライドが下ろされ、心霊写真が拡大して映されます。

「これどこがおかしいかわかる?」

「そこ、じゃああなた」

「おっすごい!よくわかったね!」

「これは悪いものじゃないんだけどね」(ほんとかよ…)

稲川さんのファン絡みの凄まじさにほっこりしつつも怖いものは怖い。

というかただでさえ怖いのに稲川さんの絡みがすごく怖い。

 

「この写真覚えた?覚えたね?じゃあもうこの写真はあなたのもの!」

「今日帰ってシャワー浴びる?浴びる?じゃあ浴槽から覗いてるかも」

 

すっごく嬉しそうな顔で後に引きそうなエグいことを連発する稲川さん。稲川さんがアイドルと共に全国の心霊スポットに行くドキュメンタリー「恐怖の現場シリーズ」(私は未視聴なので詳しいことは知りません)にて、同行したアイドルをビビらせるドSっぷりから鬼畜と呼ばれている…なんて話も耳にしたことがあったのですが、その片鱗を見た気がしました。

 

そんな中スライドに映されたとある写真。

「これ初めて見る人〜」

稲川さんの質問に私は手を挙げました。どうやらこの写真、稲川ファンにとっては有名なものらしく、かなり昔から彼が所持している心霊写真なのだそうです。

どこかの川?池?を撮った写真で、女のような物体が左下に見えました。丁度水面から顔を出している状態というのでしょうか。どうもこの顔、最初は横を向いていたそうなのですが、長い年月をかけて正面を向いてきたそうです。

動く心霊写真…

(私はもう二度と見たくないのでリンクは貼りませんが、検索したら一発で出てくるので興味があれば探してみてください。)

そしてその顔部分が更に拡大され、スライドに映し出されます。

「これ毎回ツアーに持ってきてるんだけどね、ツアー中に動いたこともあったんだ」

「今日は…動かないね」

いやいや動かれたら困る…

スライドの方を向いていた稲川さんが私たち観客の方に向き直り、またトークを再開したときでした。

 

「きゃーー!」

 

客席前方部に突如ざわめきが。

私もスライドを見て硬直しました。拡大された女の顔の額の部分にじんわりと染みのようなものが広がったのです。私の位置からはその染みがまるで目玉のように見え、酷く不気味でした。染みは暫く広がって動いたあと、何事もなかったかのように消えました。私は確認できませんでしたがその後女が浸かっていた水面がさざめいたとかなんとか…

機械の不調による映像の乱れだったのかもしれないし、はたまた”本物”だったのかもしれません。どちらにせよあのタイミングでそういうことをされると普通にビビる。

動揺が走る会場内、観客の異変に気付いた稲川さんはスライドに再び向き直り

 

「あ、ほんとだ。動いてるね」

 

そしてあっさりと次の写真に移ってしまいました。

ええ…

彼が数々の心霊スポットに足を運びながらもこうして無事に生きながらえている理由は、この凄まじいスルースキルにあるのかしら。なんて思わせる淡白さ。

そんなこんなで心霊写真コーナーも終わり、また舞台の隅から隅まで丁寧に手を振って退場する稲川さんを見送る形でツアーは終了しました。

 

あまりにも濃い数時間でしたが、ホラー苦手な私でもすごく楽しかったです。

(ただ目を瞑ると3日経った今でも心霊写真の顔が浮かび上がってきます。)

テニミュは現在関東大会氷帝戦が公演されており、涼しい学校名とは裏腹に熱い戦いが繰り広げられています。

ヒートアップしてHMS本来のベストなテンションまで高めるのもいいですが、怪談ナイトでクールさを取り戻すのも乙ではないでしょうか。